工場労災死亡事故遺族になってしまったら。慰謝料や訴訟方法を解説します

工場労災死亡事故遺族になってしまったら。慰謝料や訴訟方法を解説します
工場で勤務している際には特に「安全」には気をつけなければいけません。大型の機械を扱っていることも多く、また化学薬品工場だったりすると爆発する可能性もあるからです。これほどの事故になった場合、本人が注意をしていても巻き込まれて事故に遭うということがあります。

では、もしこういった事故によって命を落としてしまったらどうなるのでしょうか?ここでは「労災死亡事故とは?」「遺族はどうすればよいのか」「慰謝料などは支払われるのか」などについて説明していきたいと思います。

1.労災死亡事故とは

労災死亡事故とは
まず労災(労働災害)には大きく分けると三種類あります。
「通勤災害」は住居から勤務先との間の通勤中に起きた怪我、病気、死亡のことです。
「業務災害」は勤務中に起きた怪我、病気、死亡のことです。
「第三者災害」は勤務先の企業とは無関係の第三者の不法行為によって起きた怪我や病気、死亡に関することです。

工場での死亡事故などは二つ目の「業務災害」に関係してきます。

労働者が勤務中に、本来会社や工場側が行わなければいけない安全対策を怠っていたことが原因となることで、または会社で勤務している他の労働者の故意もしくは不注意により起こった事故によって怪我を負わされた場合は被害にあった労働者は会社に対して、医療費や慰謝料、その他さまざまな損害賠償請求をすることが可能となります。

また、労災事故によって被害にあった労働者が死亡してしまった場合は被害にあった労働者に代わって遺族が請求権を引き継いだ形となって、会社に対して請求することができるのです。

しかしその対応や保障の金額については企業によって完全に違ってきます。誠意のある対応を見せる企業もあれば、会社に責任はないと否定し続けるような企業もあります。また、その金額についても一般的な金額の場合もあれば、非常に低い金額を提示してくることもあります。

もちろんすべてがスムーズに進んで支払いまでいけば一番良いのですが、そういかない場合には弁護士に入ってもらう、示談交渉を考えるなど別の動きをしていかなければいけないこともあるでしょう。一般的には裁判所が提示する金額の目安としては死亡慰謝料として2000万円~3000万円ほどの間が多いようです。ただこれはあくまでも目安ですので、会社の責任の強弱、本人の過失の度合いなどによっても金額は変化していきます。

うーん、複雑だなあ。結局どこに請求したらいいのかわかんないんだけど
労災保険との違いもあるしね
うわ、もっと複雑になるんだ。どうしたらいいんだろう
じゃあそのあたりを順番に説明していこうかね

まず、こういった労災事故の場合は労災保険から保険金が支払われます。ここにはいくつかの種類が存在します。
「療養補償給付」は、怪我を治療するのに必要になった治療費を補償してくれるものです。
「休業補償給付」は、怪我によって勤務することができなかった分の給与を補償してくれるものです。
「障害補償給付」は、事故による怪我で後遺障害が残った場合に逸失利益(本来得ることができたはずの利益)を補償してくれるものです。
「遺族補償年金」は労災死亡事故によって発生した逸失利益を補償してくれるものです。
「葬祭給付」は、労災死亡事故によって行われた葬祭に関する費用を補償してくれるものです。

これらを見ていけばわかることですが、労災保険の保険金では「慰謝料」を補償するものはないのです。ということは労災死亡事故についての慰謝料は労災保険からは支払われないということになります。

では、慰謝料は誰が払うのでしょうか?これは先述した通り、遺族が労災に遭って死亡した労働者の勤務先の会社に対して請求するということになるのです。




2.労災死亡事故の認定、立証と支払い総額の変動

労災死亡事故の認定、立証と支払い総額の変動
こうして企業に対して請求をしていくことになるのですが、どのような場合にでも必ず認められて企業が慰謝料等をすべて支払ってくれるわけではありません。そこには色々な、認められなければいけない要件があるのです。

まず労災として認めてもらうには「労働者が会社に指示された業務を行っている、および指示された業務を行うために移動中であるとき」(業務遂行性)に、「その業務を行っていた、および行おうとしていたことが原因となって事故が発生した」(事故起因性)ことが必要となり、認められると労災事故となるのです。

つまり、会社には居ているが業務とはまったく関係がない遊びをしている時に事故で怪我をしても労災にはならないということです。また、会社に通勤する際に回り道をして自分の趣味の買い物などをしていてその途中で交通事故に遭った場合なども労災にはなりません。まずこういった要件を満たしていることが最低条件となります。ここまではある程度簡単にはっきりさせることができます。

しかし金額が大きく変わってくるのはここからです。会社に対して多額の損害賠償責任を問えるかどうかは、そこで起こってしまった事故を防ぐために会社がどのような安全設備を整え、安全マニュアルを実施していたかどうかが関係してくるのです。

会社側が考えられる限りの安全配慮を行っていた上で起こった事故と、安全配慮を怠っていて起こった事故ではその責任度合いが変わってくるのです。例えば、何度も似たような事故が起こっており、その安全性を追及されていたにも関わらず会社側が何の対応も取らず、その結果死亡事故が起こったとしたら会社の責任は非常に重いものとなります。

こういった安全配慮については「安全設備の設置」「指揮系統の明確化」「どのような作業をどのようなやり方で行っていたのか」などをはっきりとさせていかなければいけないのですが、すべての会社で同じ条件のわけがありません。その会社ごと、その工場ごとで個別に判断していかなくてはいけないために複雑化しているのです。

そして会社に対して請求をする際にはこれらを具体的に立証していく必要があるのです。これは個人で行うにはかなり厳しい内容になるために弁護士を雇って行うことが多くなっています。

簡単に支払ってもらえるわけじゃないんだね。
まあ会社にとっても大金だからね。すぐには請求通り払わないさ
じゃあ、できるだけ支払ってもらう金額を多くするにはどうしたらいいんだろう
もちろん色々と方法はあるよ。それを紹介していこうか

色々と細かい条件はついてきますが、簡単に言うと「会社側の安全配慮義務違反の度合いが高い」そして「被害に遭った労働者に落ち度がない」ほど支払われる金額が高くなります。

労働者の落ち度というのは、例えば会社や工場がしっかりとした安全マニュアルを設定して安全に配慮していたのにも関わらず、自己流で作業をしていたり、決められたやり方で機械の操作をしない、ヘルメットをかぶらないなどがあった場合です。こういった場合は労働者側にかなりの落ち度が認められるために慰謝料が発生しない、もしくは金額がかなり低く設定されることになります。

そしてだいたいの場合は会社側の安全配慮が完全であったかどうかが争点となります。それを立証するために、会社が労働者に対してどのような安全配慮を行っていたのか、安全注意をしていたのかを明確にしていく必要があります。こういったものは個人で会社側に公開を請求してもうまくいかない場合があります。

すべての情報を提出させるには「藤堂基準監督署が作成した調査復命書」「警察が作成した実況見分調書」などの事故に関する正確な資料が必要となってきます。そうなるとそれらの情報請求から行っていくことになるために弁護士の力が必要となるのです。情報が揃ったら会社との交渉も行わなくてはいけないために、できるだけ早く弁護士に依頼した方が確実と言えるでしょう。

ここで会社側から得られる金額は「死亡慰謝料」だけではありません。労災保険には含まれなかった諸経費や費用、そして死亡逸失利益というものがあります。特にこの死亡逸失利益が高額になることが多いために注意が必要です。これは死亡した人の年齢や家族構成なども関係してくるために専門家に聞いた方が確実です。その計算方法は、
「基礎収入額×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数」
というものになります。

簡単に言うと、死亡した時点での給料や扶養している家族の人数、何もなかったとした場合勤務できなくなる年齢までの年数などが関係してくるということです。そのため、「働き盛りの一家の大黒柱」だったりすると金額はそれだけ高くなり、数千万円になることがほとんどです。

これの計算には亡くなる直前の給与や家族構成などの情報が必要になります、また計算も複雑になるために弁護士などに算出してもらうのが一般的です。会社に支払ってもらう金額のほとんどはこの「死亡逸失利益」「死亡慰謝料」が占めることになります。

3.弁護士と交渉と示談

弁護士と交渉と示談
では実際にはどのような形で決着することが多いのでしょうか。もちろん会社に請求した金額をそのまま会社側が支払えばそれで解決します。しかし会社側が一切支払わないという態度をとったり、責任度合いの大小で納得がつかない場合は決着まで長くかかることになります。最終的に裁判所が判断を下して金額を決定することがあるのですが、実はそれまでに決着がつくことが多々あります。それが「示談」です。

示談というのは損害賠償を請求する側とされる側が直接交渉して決着を図るもので、裁判所や警察の決定が出る前に解決をすることができる方法です。たいていの場合は示談金を支払って解決を行います。実際この示談にはメリットが多くあります。

ええ、裁判所が判断していないのに決着しちゃうの?
そうだよ。まあ分かりやすく言うと当事者同士の話し合いだね
何か良いことがあるんだよね
もちろんあるさ。それがいくつもあるから示談で決着することが多いのさ

まず第一に「早く決着する」ということです。労災死亡事故に限ったことではありませんが、裁判で当事者同士の意見が食い違うとかなり長期化することが多くあります。遺族としては一家の稼ぎ手が死亡してしまっているので、できれば早くまとまったお金が欲しいところです。決着までが長引いてしまうと生活が破たんしてしまう可能性があるのです。

また、会社には「企業イメージ」というものがあります。労災死亡事故が起こってそれについていつまでも決着がつかずに裁判が行われていると企業イメージが悪くなる恐れが出てきます。できれは双方ともに早い決着が望ましいのです。そのためには裁判所の決定を待たずに先に解決してしまうことが双方のメリットとなるのです。

そして第二には、早期決着にも関係することですが「労災認定が不要」ということがあります。裁判所が判断を下すためには細部にわたるまでの情報が必要になります。そして精査に精査を重ねた上で決着がつきます。しかし示談の場合はこれを必要としません。双方の合意があればそれで決着がつくのです。

第三の理由としては「労災補償での不足をカバーできる」ということがあります。はじめの方で述べたように労災補償では慰謝料やはっきりとした逸失利益は補償されません。しかし示談であればそういったものも含めた金額で支払ってもらうことが可能なのです。

そして双方の話し合いがまとまって金額が確定すると示談が成立した証として「示談書」「合意書」が作成されます。これは後で意見の食い違いなどでもめることを防ぐためのものです。金額もかなり高額なものとなっているために必ず作成しておきましょう。

理想はまとまった金額を一括で支払ってもらえることですが、金額が高額になりすぎると分割払いを提案されることがあります。この場合でも最後まで問題なく支払ってもらえればよいのですが、途中で支払いが止まってしまうことがあります。そうしたときでも「示談書」や「合意書」があれば安心です。公正証書として作成しておけば強制執行をかけることも可能になります。

これらの交渉を一般の個人が行うのは非常に困難です。また、会社側も弁護士を立ててくることが多くありますので、やはりこちらも弁護士に任せるのが無難と言えます。弁護士には得意分野があるのがほとんどです。「労働問題」「損害請求」「労災関連」などに強い弁護士に依頼することが重要になることは間違いありません。